生成AIの基礎知識

RAGとは|社内文書をAIに答えさせる仕組みと、導入前に決めること

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結論から言うと

RAGは「社内文書を検索して、その抜粋をAIに読ませてから答えさせる」だけの仕組みです。難しいのは技術より、どの文書を対象にするかと、誰が見てよいかを決める部分でした。

この記事でわかること

  • RAGが何をしているかを、検索と要約の2段階で理解する
  • 社内文書を使わせたときにうまく答えられない典型的な原因
  • 導入前に決めておくべき権限・更新・出典まわりの論点

結論から言うと、RAGは「社内の文書を検索して、ヒットした部分だけをAIに読ませてから答えさせる」という、それだけの仕組みです。名前が難しいので身構えていましたが、中身を分解すると検索と要約の組み合わせでした。

私がRAGという言葉を意識したのは、社内の問い合わせ対応を減らせないかと考えたときです。規程やマニュアルは揃っているのに、どこに書いてあるか分からないので結局人に聞かれる。この状態を何とかしたい、という動機でした。

結論

✅ ここだけ読めばOK

  • RAGは「検索」→「抜粋をAIに渡す」→「その範囲で答えさせる」の3ステップ。魔法ではない
  • 答えの質は、AIより先に「対象文書がきれいに揃っているか」で決まる
  • 導入前に決めるべきは技術より運用。誰が見てよいか、更新は誰がやるか

RAGを入れれば社内の質問が自動で片づく、という期待で始めると、たいてい「それらしいが微妙に違う回答」が返ってきて止まります。原因はAI側ではなく、読ませている文書側にあることが多いです。

RAGが何をしているか

RAGは Retrieval-Augmented Generation の略で、日本語にすると「検索で補強した生成」です。処理の流れはこうなります。

  1. 利用者が質問を入力する
  2. その質問に関係しそうな文書を、社内の文書群から検索する
  3. ヒットした文書の該当部分(抜粋)を取り出す
  4. 「この抜粋を根拠にして答えて」という指示と一緒に、AIへ渡す
  5. AIが抜粋の範囲で回答を作る

ポイントは4です。AIが元から知っている知識ではなく、その場で渡された抜粋を読んで答えているだけです。つまり、抜粋に書かれていないことは答えられません。

この理解があると、「なぜ社内のあの規程を答えてくれないのか」という疑問の切り分けが早くなります。多くの場合、AIが賢くないのではなく、2の検索でその文書が拾えていません。

チャットに資料を貼るのと何が違うか

やっていることは、資料をチャットに貼り付けて質問するのとほぼ同じです。違いは、どの資料を貼るかを人ではなく検索が決めている点だけです。

だから、貼る資料が自分で分かっている状況ではRAGは要りません。私も、手元にPDFが1本あるだけなら、そのままチャットに投げます。RAGが意味を持つのは、資料が数百・数千に増えて「どこに書いてあるか分からない」が問題になってからです。

うまく答えられないときの原因

導入してみて詰まるのは、だいたい次のどれかでした。

症状 起きていること 対処の方向
関係ない文書を根拠にする 検索が的外れなものを拾っている 対象文書を絞る・分割の仕方を見直す
「分かりません」ばかり返る 検索でヒットしていない 表記ゆれ・用語の言い換えを補う
古い内容で答える 旧版の文書が残っている 対象から除外する運用を決める
一般論に流れる 抜粋が薄く、AIが知識で補っている 根拠が無ければ答えない指示にする

いちばん厄介なのは最後です。抜粋がほとんど役に立たないとき、AIは黙らずに一般論で埋めてきます。見た目は自然な文章なので、読む側が「社内規程にそう書いてある」と誤解しやすい。

⚠️ 注意点

RAGを入れても、事実確認の必要はなくなりません。回答には必ず出典(どの文書のどこか)を表示させ、重要な判断の前には原文を開いて確認してください。特に人事・法務・契約・料金にかかわる回答は、AIの要約だけで済ませないほうが安全です。

このあたりの誤りの出方は、通常のチャット利用と同じ性質です。生成AIのハルシネーション対策で書いた「根拠を出させる」「聞き方を分ける」といった工夫は、RAGでもそのまま効きます。

対象文書の準備でほぼ決まる

私が一番時間を使ったのは、AIの設定ではなく文書の側でした。

揃っていない文書は入れない

とりあえず共有フォルダを丸ごと対象にする、という発想が最初に出ますが、これはやめたほうがいいです。共有フォルダには、下書き、旧版、個人メモ、誰かの作業ファイルが混ざっています。それらを根拠に回答が作られると、間違いの原因が追えなくなります。

最初は範囲を狭くして、次の条件を満たすものだけを入れるほうが結果的に早いです。

  • 最新版がどれか決まっている
  • 誰が更新するか決まっている
  • 全社員が見てよい内容である

版管理されていない文書は害になる

「2024年版」「最新版_修正済」「最新版_修正済_final」が同居しているフォルダを対象にすると、AIは平気で古いほうを根拠にします。人間なら日付を見て判断しますが、検索は文章の近さで拾うので、そこは見ていません。

これは技術で解決するより、対象から外すほうが確実でした。

表記のゆれを吸収する

社内用語と、社員が実際に検索するときの言葉はよくずれます。規程には「特別休暇」と書いてあるのに、みんなが検索するのは「慶弔休暇」だった、という具合です。

このずれは、文書に別名を書き足しておくか、質問側を言い換えて検索する仕組みで埋めます。ここを放置すると「何も出てこないAI」になって、誰も使わなくなります。

導入前に決めておくこと

技術検証より先に、これを決めておかないと途中で止まります。

誰が何を見てよいか

社内文書には、全社公開のものと、部署限定のものが混ざります。RAGは検索してきた内容をそのまま回答に出すので、権限設計を先にやらないと、見えてはいけない情報が答えの中に出ます

安全側に倒すなら、最初は全社員が見てよい文書だけを対象にすることです。人事評価、給与、採用、法務案件のような機微な文書は、権限を分けられる目処が立つまで入れない判断をしました。

情報の扱い全般については、生成AIの情報漏洩対策社内AI利用ガイドラインの作り方のほうで整理しています。

更新を誰がやるか

文書が更新されたのに、AIが読む側が古いままだと、間違った回答が出続けます。「誰がいつ反映するか」を決めていないと、半年後には誰も信用しないシステムになります。

担当が決められないなら、対象文書を減らすほうがいいです。維持できない範囲まで広げても、精度が落ちるだけでした。

出典を必ず出す形にする

回答だけを表示する作りにしないでください。「どの文書の、どのあたりを根拠にしたか」を必ず添える。これがあると、利用者が自分で確認でき、間違いにも気づけます。

出典が無いと、便利なうちは使われますが、一度誤りが見つかった瞬間に全面的に信用されなくなります。

答えられないときの挙動を決める

根拠が見つからないときに、無理に答えさせない。「該当する記載が見つかりませんでした」と返す方が、それらしい嘘より役に立ちます。ここは指示の書き方で調整できる部分です。

💬

最初に作ったときは出典を出していませんでした。試した人から「これ本当に規程に書いてある?」と聞かれて、確認したら書いていなかった。この一件で、出典表示は後付けのオプションではなく最初から必須だと考えを改めました。

RAGを使わないほうがよい場面

全部をRAGにしようとすると、かえって手間が増えます。私が向いていないと感じたのは次のケースです。

  • 文書が数十件しかない:必要なものを直接貼るほうが速く、確認も楽
  • 答えが文書に書かれていない:判断や交渉の余地があるものは、そもそも検索で出てこない
  • 正確さが絶対に必要:契約や申請の可否は、要約ではなく原文を読むべき
  • 文書がまだ整っていない:整備前に入れると、散らかった状態がそのまま回答に出る

最後が一番多い落とし穴です。RAGの導入は、文書整備をやらずに済ませる方法ではありません。むしろ、整備されていない状態が可視化されます。

ファインチューニングとの違い

よく比較されますが、目的が違います。

RAG ファインチューニング
やること 検索した文書を読ませる モデル自体を追加学習させる
内容の更新 文書を差し替えれば反映 学習をやり直す必要がある
向く用途 事実・規程・マニュアルの参照 文体や出力形式の固定
出典の提示 できる 難しい

社内文書のように中身が変わっていくものは、RAGのほうが素直です。文書を直せば答えも変わるので、運用の見通しが立ちやすい。

小さく試すなら

いきなり全社向けに作らず、次の順で試すのが現実的でした。

  1. よく聞かれる質問を20個書き出す(ここが評価基準になる)
  2. その答えが書いてある文書だけを対象にする(10〜30件程度)
  3. 20問を投げて、正解・出典あり・誤りの3分類で数える
  4. 誤りの原因が検索側か文書側かを見る
  5. 文書を直してから、対象を広げる

3をやらずに広げると、良くなったのか悪くなったのかが分からなくなります。数を数えるだけでも判断がかなり楽になりました。

こうした仕組みの検討や、業務プロセスへの落とし込みまで含めて体系的に学びたい場合は、講座を使って一度整理する選択肢もあります。独学だと、動くものは作れても運用設計まで手が回りにくいところです。

私の結論

RAGは、社内文書を検索してAIに読ませるだけの仕組みです。技術的な難しさより、どの文書を対象にするか、誰が見てよいか、誰が更新するかを決めるほうが大変でした。

逆に言うと、文書が整っていて、範囲が決まっていれば、想像よりずっと素直に動きます。まずは質問20個ぶんの狭い範囲から始めて、答えられなかったものを一つずつ潰していく。この進め方が、遠回りに見えて一番確実でした。

よくある質問

RAGを使えばAIが嘘をつかなくなりますか?

なくなりません。RAGは回答の材料を社内文書に寄せる仕組みで、材料が見つからなかったときや、抜粋の読み取りを誤ったときには誤った回答が出ます。出典を必ず表示させ、人が原文を確認できる形にしておくほうが現実的です。

RAGとファインチューニングはどちらを選ぶべきですか?

社内文書のように内容が更新されるものを扱うなら、まずRAGのほうが扱いやすいです。文書を差し替えれば回答も変わるためです。文体や出力形式を固定したい場合はファインチューニングが候補になりますが、最初の一歩としては重い選択肢です。

小さな組織でもRAGは必要ですか?

文書が数十ファイル程度なら、必要な資料をその都度チャットに貼り付けるほうが速く、確認もしやすいです。RAGが効いてくるのは、どこに書いてあるか自体が分からない量になってからです。

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管理人

2023年3月から生成AIを業務利用

都内のメーカーで企画職をしている会社員です。2023年に ChatGPT を仕事で使い始めてから、資料づくりと議事録がだいぶ楽になりました。以来、気になったAIツールはとりあえず有料プランで1か月使ってみることにしています。ここは、その記録を残している個人サイトです。本名は伏せています(勤務先の広報規定のため)。

どういう基準で書いているか